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やりたいことを見つけるカギは、「what」ではなく、「when」である

 

「へえ! 3年12期連続で営業成績ナンバー1!

 

ダイキさんの営業の秘訣は、ズバリ何ですか?」

 

じゅくちょうは身を乗り出してダイキの話に切り込んだ。

  

 

「秘訣というほどでもないですけど、

 

やっぱり『段取り』と『お客様目線』ですね」

 

謙遜も不遜もなく、ダイキは当たり前のことを答えた。

 

この日、勉強を教えない塾にはサラリーマンのダイキが相談に訪れていた。

 

「それだけの企業で、それだけの実績を残せるって、すごいですねー!」

 

じゅくちょうは純粋にダイキとの会話を楽しんでいるようだったけど、

 

ダイキの内心は不安と焦りが渦巻いていた。

 

 

「(……この人、俺の悩みを解決する気あるのか?)」

 

 

先月末、ダイキは大学時代の友人のリュウから、じゅくちょうのことを聞いた。

 

久々の飲みの席で、リュウが和太鼓のチームでがんばってる様子を聞いて、自分の身の上話もしてみたくなったことがきっかけだった。

 

「俺、今の仕事のままじゃ嫌で、もっと何か違う挑戦をしたいと思ってるんだ。でも、自分が何をしたいのか、まだうまくまとまってなくて…」

 

思いつくまま近況をダラダラと説明していると、ひと段落したところでリュウが話をまとめてくれた。

 

「ああ、つまり、何か『発想の転換』みたいな何かが必要ってこと?」

 

「そう、それ! 発想の転換! 今までと同じことをやってても何も変わんないしさ。」

 

「俺もダメサラリーマンから抜け出した身だし、その気持ちはわかるよ。」

 

リュウの話の引き出し方やまとめ方がうまくて、ダイキは心ゆくまで自分の話ができた。

 

「さすが和太鼓の若きエースは違うなー! よし、これからの俺たちにカンパーイ!」

 

すっかり舞い上がって満足気になったダイキは、机の上のクラフトビールを並々とグラスに注いだ。

 

モコモコと泡が立ち込めるクラフトビールを眺めながら、ダイキは決意を固めた。

 

何でもいいから何か行動に移そう。気を抜くにはまだ早い。

 

 

酒が抜けた次の日、ダイキは昨日の決意を実行に移そうと、早速リュウに連絡をとった。

 

そして、リュウは「発想の転換」を売りにしている勉強を教えない塾と、創業者のじゅくちょうの存在を教えたのだった。

 

 

リュウからの紹介で特別に時間をつくってもらった手前、あまり失礼なことはできない。

 

それでも、先の見えない「質疑応答」が無駄な時間に思えて、ダイキは早く本題に入りたかった。

 

 

「それで、ダイキさんはいつ頃から、今後の働き方や生き方について考えているんですか?」

 

じゅくちょうはひょうひょうと質問を重ねる。

 

「仕事を始めて最初の2年は必死だったので……考え始めたのは3年前くらいですね。」

 

ダイキは聞かれるままに丁寧に答える。

 

 

 気付けばもう話し始めてから60分が経っていた。

 

早く新しい発想を教えてほしいのに、ヒントらしい情報は何もなく、ただ自分の過去を説明するばかりだった。

 

リュウは何のつもりでこの人を紹介したんだろう。

 

最初は笑顔で答えていたダイキも、疑問が渦巻くに連れ、次第に表情が曇ってきた。

 

 

「この3年で、本当に大きくガラッと変わってきたんですね。いやー、ほんとすごいですね!」

 

「あの……過去のことはもういいので、これから先のことを聞かせてもらえませんか?」

 

ついにダイキはじゅくちょうの話を遮った。遠慮がちに、でも少し強気な態度で。

 

このままじゃもっと時間を無駄にしてしまう。

 

今の生活と同じように、この時間にも早く結論を見出さないと。

 

欲をいえば、じゅくちょうにも相談相手の心境を察してほしかった。

 

 

「ええ、わかってますよ。ダイキさん、気付いてますか?

 

今のこの会話と今のダイキさんの状況は、まったく同じなんですよ。」

 

 

しかし、意外にもじゅくちょうはあわてる様子もなくダイキに答えた。

 

動揺するどころか、むしろダイキと同じくらい強気な態度で。

 

態度だけじゃなく、今の状況に対して感じていたところもダイキと同じで、ダイキはますます疑問が増した。

 

 

「どういうことですか?」

 

「ダイキさんの、答えを急ぐ感覚ですよ。」

 

「……確かに、早く答えを見つけてスッキリしたいと思っています。」

 

「ダイキさんは社会人になってから5年で、たくさんのことを経験してきたわけですよね?」

 

さっきまで柔らかく聞き役に徹していた雰囲気から一転して、

 

じゅくちょうはどこか確信犯的な質問をぶつけてきた。

  

「……ええ、そうですが。」

 

「5年の積み重ねがあったからこそ、今の気付きや疑問があるわけですよね?

 

 

それを今のたった1~2時間だけで、全部スッキリできると思いますか?」

 

 

グサリと核心部分を突かれた感じたして、ダイキは気圧された。

 

ダイキが何も言い返せない状況を察して、じゅくちょうは説明を続けた。

 

 

「誰にでも万能な『やりたいことの見つけ方』なんて存在しません。

 

『その人に合った見つけ方』があるだけです。

 

でも、それを見つけるにはまず『自分』を知る必要があるので、時間がかかるんです。」

 

 

「……そうですね。でも、やっぱり答えが見えないと不安で、焦ってしまいます。」

 

「『何をするか』ばかり考えると、答えが見えなくなるでしょう?

 

だから、質問を変えるんです。

 

 

それだけ大きな課題の結論は、現実問題として、いつ頃まで時間がかかりそうですか

 

 

いつ……と聞かれて、ダイキは冷静に計算してみた。

 

「……そうですね。3ヶ月くらい、遅くとも半年あれば方向性は見える気がします。

 

「それなら、今からの3ヶ月は、ひとまず状況の整理に時間をかけてはいかがですか?

 

あるいは、今の悩んでる状況を一つ一つじっくり味わって過ごすとか……」

 

「……それで大丈夫なんですか?」

 

「だって、すぐに結論を出す方が現実的じゃないんでしょう?」

 

「そうですが……課題って、すぐに解決しないといけないものだと思ってました。」

 

突然、ダイキの頭の中で発想の転換が起きた。

 

 

今まで、学校や職場では、問題が起きれば早めに解決することが大切だった。

 

問題を長引かせて良いことはない。問題解決は、早ければ早いほど良いと思っていた。

 

しかし、人生には「すぐに解決できない問題」も存在する。

 

結論を急ぐ方が、かえって良くない結果になる場合があるとダイキは気付いた。

 

疑問や不満が一気に溶け出し、ダイキの表情が緩んだことを確認して、

 

じゅくちょうは話を付け足した。

 

「やりたいことがわからない人の、典型パターンなんです。」

 

 

「ペットがエサを欲しがるように、子どもがオモチャを欲しがるように、

 

多くの人がすぐ問題を解決してくれるものを欲しがります。

 

早く子どもの成績を上げてくれとか、早く起業を成功させてくれとか、ね。

 

 

でも、そういう人ほど次から次へと問題がやってきて、キリがないほど問題解決に追われています。

 

根本的に問題を解決して、人生や生活をガラッと変える人は、そうではありません。

 

問題の「深さ」や、解決にかかる「長さ」を考えて、少しずつ問題と向き合うんです。

 

 

今自分が直面している問題は、どれくらいの時間をかけて芽生えたものなのか?

 

それを解決するには、実際問題どれくらいの時間がかかりそうなのか?

 

 

問題を「点」でとらえるのではなく、「線」でとらえるんです。

 

問題がある状態を受け入れつつ、でも解決を諦めない。

 

それには少し高度な知性が求められます。ペットが「待て」を覚えるようにね。」

 

 

……ダイキは頭の中にイメージを思い浮かべて納得した。

 

同時に、今の自分の問題への焦りが消えて、妙にスッキリした気持ちになった。

 

 

そういえば、今解決しないといけない理由はない。

 

今すぐ仕事を辞めるつもりも、今生活に行き詰まっているわけでもない。

 

今の生活を続けながら、少しずつ次の方向性を見出しても悪くはない。

 

むしろ、安定した状態を続けながら、次にシフトする準備ができるのは最善かもしれない。

 

冷静に考えれば、今の自分の状況は意外とベストかもしれない。

 

 

これまで話した自分の経緯や状況がすべてつながった。

 

「やりたいこと」を見つけるには、どうやらこれでいいんだ!

 

 

「何かわかった気がします。具体的にどうするかはまだ見えてませんが、

 

もう少し時間をかけて考えてみようと思います。」

 

「はい、ぜひ一つ一つの経験やアイデアを味わってくださいね。

 

その方が、かえって答えや方向性が見つかりやすくなりますから。」

 

 

 

これが「発想の転換」かと思いながら、ダイキはじゅくちょうに礼を言って塾を後にした。

 

来る時に感じていた疑問やいら立ちは、帰る頃には次のアイデアへと昇華されていた。

 

ひとまず、今まで読んだ本や受けたセミナーの復習でもやってみるか。

 

それがあったから今の仕事の成果もあったわけだし、自分を知るヒントになるはずだ。

 

 

悩んでいるからといって、すぐに答えが出るとは限らないし、

 

すぐに答えを出す必要もない時だってある。

 

もっと時間をかけて自分の人生と向き合っていこうと思って、ダイキは帰路についた。

 

 

次にリュウと飲む時は、お礼としてクラフトビールをおごってやるか。

 

(To be continued...)